非情な「鉄の処女」
「鉄の処女」と言うと、いかにも硬そうな、深窓のお嬢様のイメージを抱く。
しかし、ヨーロッパ中世に現れた、「鉄の処女」は、まったく違う。
真夏であっても人の血を凍らせる、まことに不気味な処刑器具兼拷問器具のことである。
金属あるいはそれに類するものを、中に人が一人入れる程度の空間を設けて作る。いわば、人の形をした棺おけみたいなもの。
棺おけは寝かせるが、この「鉄の処女」は、直立した状態で使用される。
前部の蓋の部分は、片側に蝶番をつけて、開閉できるようになっている。蓋の表には、女性の顔が描かれている。なかには、聖母マリアの顔もあったという。だから、「処女」なのだろう。
その蓋の部分を開けて覗くと、人は恐怖に駆られる。
扉の内側には、根元が太く、先が鋭くて長い頑丈な釘が、上下に数本取り付けてある。
この「鉄の処女」の扉が開かれ、中に人が押し込められたらどうだろう。
上部の釘は、丁度目の位置にあたり、両眼を鋭く刺しぬくだろう。また、下部の釘は、確実に内臓や心臓を貫いてしまう。
1808年にナポレオンが、スペインに侵攻したとき、トレドの異端審問所の牢獄の中にも「鉄の処女」があったという。ここでは、異端審問の拷問器具として使われていたのだろう。
一度、この処女に抱きつかれると、命は確実に奪われてしまっただろう。拷問の場合は、扉の開閉を加減したのかも知れない。
この「鉄の処女」と深い結びつきを示す女性として、16世紀のハンガリーに実在したある伯爵夫人の名が上げられる。
彼女は、名前を「エルジェべト」という。ポーランド王も出したという高貴で富裕な家系に生まれた。
彼女は、この「鉄の処女」の創作者としての悪名だけでなく、「吸血伯爵夫人」としても名が知られている。何百人もの若い娘を殺して、その生き血を浴びることに悦びを感じていたからである。その際に、彼女の愛した「鉄の処女」が活躍したと言われる。
彼女については、また、ここに詳しく紹介してみたい。
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